セキュリティを読む

セキュリティを精読を通じて学んでいきます。

NIST CSF 2.0 第5回:CSF導入ステップとImplementation Tier

CSF 2.0導入ステップとImplementation Tierの活用

前回は、CSF 2.0におけるProfileの設計とその重要性について解説しました。今回は、CSFをどのように自組織へ導入し、成熟度に応じて段階的に活用していくか、その道筋を示す「導入ステップ」と「Implementation Tier(実装レベル)」について紹介します。

1. CSF導入の基本ステップ

NISTはCSF導入にあたり、以下の6ステップを提示しています(CSF 2.0 Implementation Guideより)。これらは一度きりの作業ではなく、継続的なサイクルとして活用されます。

  1. Step 1:目的の明確化(ビジネス目標やリスク環境を整理)
  2. Step 2:スコープの定義(対象とするシステム・部門の範囲決定)
  3. Step 3:Current Profile(現状把握)作成
  4. Step 4:Target Profile(目標)作成とギャップ分析
  5. Step 5:アクションプランの作成と実行
  6. Step 6:継続的な評価と改善
📌 用語解説:Implementation Guide
NISTが公開している補助文書。CSFの適用にあたっての具体的な手順、ツール例、テンプレートが含まれています。

2. Implementation Tier(実装レベル)とは?

CSF 2.0では、組織のセキュリティ活動の成熟度・統合度を4段階で評価する「Implementation Tier」という指標が定義されています。これにより、自組織の実装状況を把握し、現実的な目標設定が可能になります。

Tier 説明
Tier 1: Partial 対応は限定的で、情報共有や統制は最小限。
Tier 2: Risk Informed リスクベースの意思決定が部分的に行われている。
Tier 3: Repeatable プロセスが文書化・標準化され、繰り返し実行可能。
Tier 4: Adaptive 脅威インテリジェンス等に基づき柔軟に対応可能。
📌 解説:Tierは成熟度モデルではない
Implementation Tierは“どちらが優れているか”を示す指標ではありません。Tier 2が最適な組織もあれば、Tier 3を目指すべき組織もあります。重要なのは、ビジネスとリスクに応じた適切なTierを選ぶことです。

3. TierとProfileの関係

ProfileとImplementation Tierは相互補完的に使われます。例えば、Target Profileで定義したoutcomesを実現するうえで、自組織の現在のTierが妥当かを確認し、必要であればプロセス整備や人材投資などを行います。

Tierを無理に上げるのではなく、あくまでProfileに沿った改善が重要です。

4. 組織におけるTierの決定要素

  • 法規制・業界基準
  • 組織の規模・リソース
  • 顧客・パートナーからの要件
  • 事業継続性に対する期待値

5. まとめ

CSFの導入は単なるチェックリストではなく、現状を知り、理想を描き、ギャップを埋めるための継続的な旅です。Implementation Tierを活用することで、自組織の能力を冷静に把握し、適切な改善戦略を描くことが可能になります。

次回はCSFの6つの機能(Govern、Identify、Protect、Detect、Respond、Recover)を横断的に活用した「包括的なリスクマネジメント戦略」について解説します。