CSF 2.0導入ステップとImplementation Tierの活用
前回は、CSF 2.0におけるProfileの設計とその重要性について解説しました。今回は、CSFをどのように自組織へ導入し、成熟度に応じて段階的に活用していくか、その道筋を示す「導入ステップ」と「Implementation Tier(実装レベル)」について紹介します。
1. CSF導入の基本ステップ
NISTはCSF導入にあたり、以下の6ステップを提示しています(CSF 2.0 Implementation Guideより)。これらは一度きりの作業ではなく、継続的なサイクルとして活用されます。
- Step 1:目的の明確化(ビジネス目標やリスク環境を整理)
- Step 2:スコープの定義(対象とするシステム・部門の範囲決定)
- Step 3:Current Profile(現状把握)作成
- Step 4:Target Profile(目標)作成とギャップ分析
- Step 5:アクションプランの作成と実行
- Step 6:継続的な評価と改善
NISTが公開している補助文書。CSFの適用にあたっての具体的な手順、ツール例、テンプレートが含まれています。
2. Implementation Tier(実装レベル)とは?
CSF 2.0では、組織のセキュリティ活動の成熟度・統合度を4段階で評価する「Implementation Tier」という指標が定義されています。これにより、自組織の実装状況を把握し、現実的な目標設定が可能になります。
Tier | 説明 |
---|---|
Tier 1: Partial | 対応は限定的で、情報共有や統制は最小限。 |
Tier 2: Risk Informed | リスクベースの意思決定が部分的に行われている。 |
Tier 3: Repeatable | プロセスが文書化・標準化され、繰り返し実行可能。 |
Tier 4: Adaptive | 脅威インテリジェンス等に基づき柔軟に対応可能。 |
Implementation Tierは“どちらが優れているか”を示す指標ではありません。Tier 2が最適な組織もあれば、Tier 3を目指すべき組織もあります。重要なのは、ビジネスとリスクに応じた適切なTierを選ぶことです。
3. TierとProfileの関係
ProfileとImplementation Tierは相互補完的に使われます。例えば、Target Profileで定義したoutcomesを実現するうえで、自組織の現在のTierが妥当かを確認し、必要であればプロセス整備や人材投資などを行います。
Tierを無理に上げるのではなく、あくまでProfileに沿った改善が重要です。
4. 組織におけるTierの決定要素
- 法規制・業界基準
- 組織の規模・リソース
- 顧客・パートナーからの要件
- 事業継続性に対する期待値
5. まとめ
CSFの導入は単なるチェックリストではなく、現状を知り、理想を描き、ギャップを埋めるための継続的な旅です。Implementation Tierを活用することで、自組織の能力を冷静に把握し、適切な改善戦略を描くことが可能になります。
次回はCSFの6つの機能(Govern、Identify、Protect、Detect、Respond、Recover)を横断的に活用した「包括的なリスクマネジメント戦略」について解説します。